幸福はささやかに・・・

処暑過ぎて(なんちゃってエッセイ)

f:id:moshiryu33:20180827172947j:plain  一応、創作です。

 

 

 今は八月の終わり。

 草がけっこう伸びて、庭がうっそうと見えていた。

 暑さの続いた夏が処暑を過ぎ、少しだけ秋っぽく変わってきたと感じたのは、夕方の風のせいだった。

 

 半ドンの仕事を終えた日、街で軽く昼食をとり、ぶらぶらと店をのぞいたりしてから帰ると、ふと家や木々の色が変わっているのに気付いた。

 振り返ると、西の空は夕焼けが広がり、見上げれば雲も赤く染まっていた。その赤と太陽の金色が、木や家の壁に映えていたというわけだ。

 (ふ~ん)

 私は家に入るのをやめ、小さな庭に続く垣根の入り口の竹製の戸を押した。

 この頃は滅多に入らなかった庭の垣根は、亡くなった祖父母が作って残しておいてくれたのだが、もうかれこれ十年は経っているせいか、色あせているし、力を入れたら倒れそうな雰囲気。

 そうっと頭を下げて入り、草生い茂る庭を眺める。

 ふと、足元に何か飛んできた。

 お、アオガエルじゃないの、かわいい!

 

 ここには、庭の5分の1ほどの大きさのちょっと変わった岩がある。

 何という名前の岩が知らないが、なかなかいいものらしかった。そして、その岩の中央ほどには、雨が降るとちょっとだけ水がたまるようになっていて、しかし魚が飼えるわけではなく、知らぬ間にその水もどこかに吸い込まれている、という感じだった。

 祖父は、その水を飲みに来る小鳥を楽しみにしていて、よく小さな縁側に腰かけ、

「あれはむくどりかな。おお、ゴジュウカラもいるな」

などと独り言のように話していたっけ。

 私はその背中を見て育ったものだから、小鳥の名前は子供の割に知っていたと思う。うんと小さい頃亡くなってしまった母の代わりに、私を子供として育ててくれたのだ。

 そんなこともあまり気にせず、祖父の隣に座って庭を眺めていた私。

 

 ふと思い出がポロポロとこぼれてきて、なんだか懐かしくてたまらなくなった。

 玄関に回り、中に入って縁側の戸を開けると、着替えもせずに座ってみた。

 

 昭和初期に生まれた祖父母は、数年前に続けて亡くなって、今は私一人がこの家に住んでいる。

 父は私が生まれてから家を出て、送金とかしてくれていたようだが、いつの間にか再婚して音信不通になってしまった。でもあまり記憶がないせいか、憎しみもないし懐かしいという思いもあまりない。

 困ったことといえば、小学校時代、「お父さんの絵を描きましょう」と言われて、お祖父ちゃんの絵を描いたことや、父の日にはシャイな祖父の代わりに祖母が来ていたことぐらいだろうか。

 現代なら養育費ぐらいあっても然るべきなんだけれど、祖父母はそれには触らず、家計をやりくりして私を育ててくれたのだ。父にもいろいろ事情があったのだろう。

 そういえば祖父は戦争には行かないで済んだぎりぎりの年だった・・。それも私を育ててくれたことと何か関係あるのかしら? 

 

 小さなアオガエルはいつの間にかどこかへ跳ねていったようだ。あの岩の窪みだろうか。

 そろそろ草も抜かなくちゃな。お墓の周りはお盆の時ちゃんとやったのに、なんだか家のほうは後回しになってしまった・・。

 

 足元に、青く小さな花のつゆ草が咲いていて、いくらか群生しているようだった。

 お祖母ちゃんは、そうえいばつゆ草が好きだったっけ。よく玄関の小窓のところにコップに活けていたよな。

 

 そんなこんな、思い浮かべているうちにすっかり夕焼けは消えて、あたりは暗くなり始めていた。はっとして、立ち上がる。

 なんだか涼しすぎるので、今日は雨戸も閉めてしまおう、とギシギシいう木製の雨戸を横から引っ張り出してみる。今どきはもう、こんなの使っている人ないかな・・。

 閉めながらくすっと笑いが出た。祖父母は木にこだわっていたから、昭和の最後みたいな小さな家だけど、それなりにしっかりして決まった大工さんに直してもらいながら今まで使ってきた。

 愛着のある古い家は、きっといつか私が結婚でもしたら、取り壊すかかなりリフォームすることだろう。

 まあ、そんな日が来ればだが、とりあえず大事に住んでいかなくちゃ!

 

 今日は、母が好きだったらしい茗荷のお汁と、ナス炒めを作ろう。

 台所へ向かおうとして、仏壇の前で立ち止まり、にわかに合掌する。

 

 お祖父ちゃん、お祖母ちゃん、私は元気よ。天から見守っていて頂戴ね。

 そうそう、お母さんはそっちでは若いままなの? 後でおかず、お供えするからね!

 

 裏の台所に続く小窓にかけた風鈴がちりん!と小さな音を立てた。

 ─もうすぐこれもしまわなくちゃ。

 

 私はいつものように、祖母の残していった洗いざらしの手縫いの前掛けをかける。

 気ままな一人暮らしもいい。でも、ちょっと祖父母みたいな、平凡でも堅実な夫婦っていいな。

 そんなことがよぎりながら、なぜか鼻歌が出た。

 

 

 外ではもう、虫たちが涼やかな声で鳴き始めている。