Short story

ふと目覚めたわたくしは、部屋の小窓の外が妙に明るいことに気が付きました。

時計を見ますと、まだ午前3時。

水を飲みたくなって、布団から出ますと、ぶるっと震えるほど冷えた空気が体を包みました。

 

薄物を羽織って階段を下り、洗面所へ。

冷たい水をひと口、ふた口飲んでいるうちに、洗面所の窓からも明るさがわかります。

わたくしはつい、玄関の方へ引き寄せられてしまいました。

 

家人が起きぬよう、そうっと戸を開け戸外へ出ますと、さらに寒い空気が身を刺しました。しかし、どうしてもあの明るさの因である、月を確かめたくて、更に何歩か前へ進みました。

 

昨夜東の空で見た月は、当たり前ですが、もうとっくに西の空高く上っておりました。

 

嗚呼、それにしても、なんときれいなのでしょう。

空には、ぼうっと浮かぶ星たちが、月明かりの中でかすみながら点滅しておりました。

 

寒月といってもいいほどの崇高な白い月を見ておりますと、日中の心のなかのもやもやが、いつの間にかす~っと消えていくようでした。

いえ、そんなものなど、とうにかき消されていたに違いありません。

 

そのうち、ちるちる・・・というかすかな音が耳のなかに聞こえてまいりました。

何でしょう・・・

ちるちる・・ちるちる・・・静まり返った深夜、し~んという静けさの音の中に、妙

な、しかしどこか懐かしいような音がするのです。

 

そう、 

いつか、『赤い鳥』の中で読んだ、「金の輪」というお話が頭に浮かびました。

昔々、金属のわっかを棒で回す遊びがありましたそうな。金色の輪を回しながら、男の子が夕日の中をずっと行ってしまう・・そしてその子はいつか、亡くなってしまう・・・

というようなお話だったと思います。

 

子供心に、美しくも少し怖さのあるお話と感じ、心の奥に入っておりました。

 

ちるちる・・という音は、その金の輪をまわす音のような気が致したのでございます。

それは、キンキンでもなく、カンカンでもない、優しい軋みのような音でした。

 

月をまた眺めなおし、あの白さのなかへ、金の輪を回しながら行ってしまったかもしれない、美しくはかない男の子の姿を思いました。

 

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何分そこにおりましたやら・・。

私はすっかり冷え切ってしまい、今度は体を丸めて家へまた、そうっと入ったのでございます。

布団の中に入りますと、もうちるちる・・は聞こえてはきませんでした。

 

何とはなしに静かな興奮が私をまとい、眠ったのか眠らなかったのかわからぬまま、朝を迎えたのでございました。

しらじらと明ける新しい日は、それは穢れのない、生まれたての朝でした。

 

 

昨夜のことは、ほんとうにささやかな、数分間の冒険ともつかぬ不思議なひとときだったのでございます。まるでしばしの夢のような・・。

 

 

そういえば、今日は十五夜

またお月様に会えましたら、お礼を申し上げようかと思います。

 

 

*注・・実際は、今月は明日16日が満月です。ここでいう十五夜は、陰暦15日の満月のことと思っていただければ、幸いです。