さもなくも愛おしい日々。

お休み中にも関わらず・・・

童話が出来ましたので、超・超お恥ずかしいですが、読んでもらえると嬉しいです。

アメブロ時代に少し似たのを書いたのを、引っ張り出して直してみました。ここでのフォントは気に入りませんが、仕方ありません。また、縦書きがいいのですけどね。

では、また・・

 

 

 

  『お月さまとピエロ

                            作・思遠

       

 さて、これからわたしは、いつか夢で見た、本当のようなお話を皆さんにご紹介しましょう。

 それはいつだって、まるで実際に見てきたかのように思い出せるのです。

 

 一、小さなサーカス団

 

 あるサーカス団に一人のピエロがおりました。

 ピエロの名前は・・・そうですね、ジーニョとでもしておきましょう。

 ジーニョはその日もいつものようにピエロを演じていました。

 動物の芸や曲芸師の行う危ない演技の合間に、ぴょこん!と出てきては観客を笑わせるピエロ。小さなサーカス団のたった一人のピエロは、けんめいに動いていました。

 まずは、不恰好に大きな帽子を取ると、大げさなあいさつ。そして、無理やり拍手をもらおうと、あちらこちらへ駆け回り、つまづいて大きく一回転。

 大きな笑いが起きました。

 子供たちは、ピエロの可笑しな化粧した顔を少し怖がりながら、時おり親に買ってもらった飴を舐めています。

 その時、小さな犬が数匹、幕の中から飛び出してきました!

 愛らしく芸をしてみせる犬たちに、会場から拍手が起こります。すると後から、小さな三輪車に乗ったジーニョも出てきました。

 へんてこな運転で八の字を書いているジーニョの後ろを今度は犬たちが追いかけます。

 更に小さな車が出てくると、犬達はそれに飛び乗り、ジーニョより上手く乗りこなしはじめます。ピエロのジーニョは大慌て!

 子供達は上機嫌です。

「なんだい、あいつ、へたくそだね!グニャグニャ走っているよ!」

 ジーニョは胸にサドルをくっつけて、いかにも必死で走っているかのように動いて見せるのでした。

 暗転の後、今度は華麗な衣裳をつけた美しい女性と、檻に入ったライオンが登場しました。これから彼女はその大きな檻の中に入り、獰猛なライオンに芸をさせるのです。火の輪くぐり、仕掛けた鉄の棒をあちこち飛び移らせるなど、はらはらどきどきです。

 ジーニョは?

 彼はほんの幕間、ひと息つくために控え室で──といってもそこは幕一枚の地続きですが──待ちます。ごたごたしているのは、なんといっても小さなサーカス団ですから、仕方ありません。

 その他、小象が鼻で物を上手に操ったり、空中ブランコがあったり、ホテルのボーイのようないでたちの猿と犬が算数のまねごとをしたり、白馬に乗ったスタイルのいい男女が馬の上で曲芸をするなど、幾つもの芸が繰り広げられていきました。

 ジーニョは、芸と芸と合間に出てきて、落ちたものを拾ったり、前の演目の真似をして笑われたり、観客席に近寄って投げキッスをしたり・・大忙しです。

 やがてサーカスは終わり、お客は帰ってゆきました。

 サーカスのテントは、あと五日、この町で稼ぐのです。

 ジーニョは仲間から離れると、自分の小さな移動用の部屋へ入っていきました。このサーカス団で一番無口な彼は、皆が一緒に酒を飲もうというのも笑い顔で断り、静かになりたかったのでした。

 部屋に入るとまず帽子を脱いで、化粧を落とします。油をたっぷりつけて布でごしごし拭き、あらかじめ水を張っていた洗面器で石鹸を使い、ていねいに顔を洗いました。

 さっぱりしたピエロ・・・いえジーニョは、小さなベッドにうつぶせになると、そのまま数時間寝てしまいました。

 いえ、これは彼のいつものことなんですが。

 

  二、ジーニョのひとり言

 

 もうお月さまが空の真上にのぼって白く光る頃、ジーニョはむっくり置きだし、部屋の小窓を開けました。

 涼しい風が入ってきます。

 深い引き出しに入れておいた固いパンを取り出し、もう片手で床に無造作に置いていたワインの瓶を持ち上げると、ジーニョは小窓の前の簡易いすに腰掛けました。

 

 三日月か。

 ジーニョはワインの栓を口で抜くと、ふいっとそこらに落とし、瓶に口をつけ飲みながら、パンをかじります。

 俺もそこそこ年をとったなあ。

 といっても、何にも悲しくもない。こうして毎日仕事をしてパンとワインがあれば、そう、寝床もな・・何の不足もないってことよ。

 初めから家族もいないし、仲間は馴染みだが、仕事が終わってまで一緒にいたくはないさ。

 こうして一人でいるのはなんたって気楽、極楽とずっと俺は思ってきた。でも、この頃どういうわけか、そうでもなさそうだ。

 ジーニョは夜空を見上げて、つぶやいておりました。

 俺だって恋もした。一度、結婚だってしたさ。でもすぐ別れちまったな。だからと言って今更どうってこともねえ。

 何だかわからねえな。このまま俺は老いぼれて、ひっそり死んでしまうかも知れねえのが嫌なのか?

 だけど人と付き合うのも面倒だ。

 一体俺は今日、どうしたっていうんだ。お月さんの光に当てられて、妙に気弱になっちまったのか。

 

 ジーニョは自分の気持ちも、何をどうしたいのかもさっぱり分かりませんでした。仕事をやめて新しい土地へ行くような理由もないし、今の何の煩わしさもない生活が、すっかり身についてしまっていました。

 そんな彼の迷いを慰めるかのように、三日月だけがジーニョを優しく見守っておりました。

 

    三、新しい町へ─ジーニョのひとりごと

 

 この町での興行が終わり、サーカスはテントをたたみ、別の土地へ向かう日になりました。ジーニョも作業に加わり、やがて全ての準備が整いました。

 団長の馬車につづき、動物たちの檻が入った車が何台か走り出します。最後の最後、ジーニョの乗った家付き車がゴトゴトいいながら、みんなについてゆきます。

 

(またどこかへ行くんだな。旅から旅へ。知らない町へもどこへでも行く俺たち。考えてみれば、いい気な商売だ)

 ふと気がつくと、小窓の上にあの三日月が少し膨らんでいるのが見えました。ジーニョは嬉しくなって、お月さまに向かって話しかけました。

 

 なあ、お月さんよ、俺はこの先どうなるんだろうなあ。

 面白いピエロおじさんで一生終わるのはかまわねえが、俺は一度だって心から楽しいと思ったことはねえ。

 仕事は仕事。人が笑うのはいいが、俺はワインを飲むためにやってきたようなもんだ。

 わけえ頃は食うのに精一杯で、こうして日銭をもらうのも悪くねえと、サーカスに雇ってもらった。俺はそのことにはありがたいと思っている。

 おっと、ありがたいだなんて、何年ぶりに言ったかな・・・。

 それにこんなパンとワインだけでも、腹が減れば何だって旨いというもんだ。そう思わねえですかい、お月さん。

 俺はお月さんがうらやましい。

 そんな高いところできらきら光ってさあ、みんなに好かれて・・・。

そういえば、俺のおっかさんも、お陽さんはなくっちゃなんねえ神さまみてえなもんだけど、お月さんは、夜疲れたもんを・・・俺みてえなもんをよ、遠くから見守っていい眠りを下さるんだって、いつも言ってたなあ。

 よお、お月さん。俺をお前さんのところへ連れて行ってくんねえか。

・・・・なんてな、馬鹿なことを言ってるよ。

 

車に揺られながら、とめどなくジーニョのひとり言は続きます。

お月さまは、そんな男の上に、ひとすじの光を落としてあげました。

 

 ピエロのジーニョは、夜になれば月に話しかけ、そのうち朝が来て一団は停車し、食事を取って休む・・・をくりかえしました。サーカス団は何日もかけてやっと別の町へ到着しました。

 何だか機嫌のいいジーニョは、久しぶりに下りた土地で団員たちに話しかけました。

「お早う!元気かい?」

 話しかけられた仲間はびっくりしたように

「よう、ピエロのだんな、いい顔してるな!お早う、今日はいい日だね。」

と返しました。

 ジーニョは何だか嬉しくなって、次々と仲間にあいさつをして回りました。

「やっこさん、いったいどうしちまったんだい?妙に機嫌がいいね。車に揺られてきただけなのに、何が起きたんだろう。」

「そうさな、夢でも見たんだろう!」

 団員たちは口々にジーニョのことを言いながらテントを張り、仕事の準備を始めます。ジーニョはニコニコしながら、皆の言葉など聞こえないかのように手を動かすのでした。

 

 明日興行という日の夕方。

 皆は輪になって集まると、団長から注意事項や新しい町の様子を聞く習慣になっていました。その中でもピエロのジーニョだけは、自分の出番と段取りを聞けば、すぐ部屋へ帰ってしまうのですが、この日は珍しく皆の輪に加わっていました。

 皆はまた驚きながら椅子にかけます。

 団長の話では、ここは小さな田舎町なので、客の入りは予定していたより少ないかもしれないが、まあ気にせずいつものようにやってほしい、皆怪我のないよう、注意してな、ということでした。

 ジーニョはいつもと違う自分になんだか興奮していました。それは、胸の底から湧き上がるような、静かで熱い興奮でした。

(俺は、どうしたんだろう。これまで長い間仕事をしてきたが、こんな気分は初めてだ。なんだか、わくわくしているぞ)

 ジーニョは部屋に戻ると小窓を開けました。お月さまはだいぶふくらんでいます。

 

(お月さん、俺は明日、全力でピエロをやるぜ!本物のピエロを子供達に見せてやるんだ)

 

      四、小さな町でのサーカス

 

 上天気の朝。興行は午前十時と午後四時から、と書いた大きなポスターが入り口付近に貼られました。もちろん、団長はその前に町中に貼らせてもらって準備万端です。

 ジーニョは小さな椅子に座って、もう化粧した自分の顔を体操のように動かしながら、幕の開くのを待ちました。

 そして、とうとう会場です。お客がここでどんどん入ってくる・・・・はずでしたが・・・なんということか、人数はまばらです。

 団員たちは硬い表情で顔を見合わせました。

「こんな人数で演技するのかい?危ない芸をして、採算が合うとでも?」

 曲芸師たちは幕の中で口々に文句を言い合い、団長はおろおろしながら一生懸命彼らをなだめます。

「(ああ、困った!)みんな、確かに今日はひどいが、誰かが面白いと思ってくれたら、明日はまた違う。どんなに少なくても、お金を払って来てくださっているんだ。どうか、頼む!」

 団長の言葉に怪訝な表情の団員たちはしぶしぶ動きます。

 その間、ジーニョだけは一人幕の開くのを待っており、皆のことなど知ったことではありませんでした。

 さあ、どうにもこうにも開幕です。

 いつものように団長がまず出てくると、口上を述べ始めます。

「紳士淑女の皆さま、そして、小さい紳士淑女の皆さま、ようこそ楽園サーカスへ!わがサーカスでは、息を呑むような芸や可愛い動物たち、みんなの好きなピエロさんが出てきますよ!最後まで、どうぞお楽しみください!」

 間をおかずジーニョがピョコンと出てきますと、まばらな拍手が起こりました。ピエロは気にせず、いつもの何倍もおおげさな──いえ、決してわざとではありません──動きで、お客の笑いを受けます。

 次から次へと芸が始まりました。音楽と共に、笑みをたたえた団員たちの華麗な曲芸、楽しい出し物の合間に、ジーニョはちょろちょろと出てきて間抜けぶりを披露しては、走り回りました。

 そうしてこの町の最初の興行が終わりました。

 

 団員たちは口数も少なく、ため息をつきながら自分の部屋へと戻っていきます。早々と誰もいなくなった後、残ったのはジーニョと団長だけでした。ジーニョはいつの間にか自分のワインを片手に、団長とちびちび飲み始めます。

「団長さんよ、俺、ピエロってなかなかいいもんだと、この年になってやっと思うようになりましたぜ。」

ジーーニョの言葉に驚いた顔で、団長は言いました。

「君、確かかれこれもう四十年ほどこの楽園サーカスでやってくれてるね。よく今までついてきてくれたな。・・・しかし、今日という日はまいったよ。今までになく不入りだったし・・私の見当違いだったようだ。」

「そうですかい?」

ジーニョは団長と二人で会話するのも珍しいのですが、話を続けます。

「俺は自分のことでいっぱいで、ただ夢中でしたぜ。まあ、明日のことは誰にもわからねえ。そう気を落とさねえでくだせえ。」

そう言われても何も返せない団長は、悲しそうに手を振ると、その場から離れてしまいました。

 ジーニョはただ一人、満足でした。精一杯、ピエロになった自分が嬉しいような、誇らしいような気持ちでした。少ないお客に向かって、

(楽しいかい?一緒に笑おうよ!)

とメッセージを送った気がしていたのです。

 すがすがしい気持ちで、ジーニョは床に就きました。

 

 

      五、二日目を迎えて

 

 一夜明け、翌日です。

 団員たちは、朝から団長を取り囲み、こんな事を言っています。

「団長!悪いことは言わない、すぐ次の町へ行きましょうよ。絶対、そっちのほうが客は入るよ。こんな町じゃ俺たち皆、食い上げだ。」

かわいそうな団長は真っ赤な顔をして黙っています。

 そこへ、ピエロのジーニョがやってきました。不思議そうに皆を眺めています。

「お前さんからも言ってやれよ!隣町へ行こうってさ。」

その時ジーニョは皆の顔をぐるりと眺めると、こう言いました。

「うん、そりゃあ俺たち楽園サーカスの看板を一度揚げた以上、まず今日だけでもやらないとな。団長が今日の様子を見て判断したらいいさ。そして行くなり、なんなりすればいい。」

 無口で通ってきたこのピエロのジーニョが堂々とものを言ったので、皆は一瞬黙りました。そして、どうにもこうにもそうせねばいけないような雰囲気が漂い始め、皆は顔を上げると仕方なく準備を始めました。

 心が一つになっていなければ危ないことだらけのサーカス。しかしそのうち団員たちはいつものように切り替えると、きりっとしたいでたちで幕の前に集まりました。

「皆さん、ありがとう。今日駄目だったら、必ず明日は移動しますから、どうか頑張ってやってくれたまえ!」

団長は複雑な、しかしほっとしたような面持ちできっぱりと言い放ちました。

 

やあ!!

 

皆でいっせいに掛け声を上げると体慣らしです。お客が入るまでの時間、静かな緊張がみなぎりました。

「いらっしゃい、いらっしゃい!さあさあ、どんどんお入り下さい!お子さんはポップコーンか飴はいかが?」

入り口では案内の親父が白い付け髭をピンと立て、面白おかしく客を呼び込んでいます。

 その様子を見に来た団員は、びっくり!!なぜって・・・

 かつてないくらいの人がぞろぞろ、入り口に並んでいるのです。

(いったい、どうしたんだ?昨日と今日で何が違うってんだ?)

 小さいサーカスのテントは、今やはちきれんばかりの人だかりでざわめいております。

 そんな中、何も知らずにジーニョだけは静かに幕の開くのを待っていました。

 

ジャ~ン!!

 小さな楽団が自分の楽器をこれ以上ないくらい鳴らし、開幕です。

 団長の口上、そしてピエロの登場です。ひょこひょこ出てきたジーニョに、会場から大きな拍手が沸きました。

「ピエロさんだ!お母さん、あの人の顔、面白いね!」

 子供たちの大好きなピエロはまるでお客に会ったことが奇跡のようにパッチリと目を見開き、嬉しそうに体を揺すりました。それからいきなり走り出したかと思うと、子供らのところに行っては手を振り、ご婦人の前ではうやうやしくお辞儀をし、盛大な投げキッスを送ります。

 そしてまた芸の始まりです。団員たちは張り切って、素晴らしい芸の数々をこなしてゆきました。

 そうしてまる二時間は、たくさんのお客の拍手と歓声の中で終わりました。

 午後はどうだったか・・?ですって?

 勿論、これ以上ないくらいの出来で大盛況でした。

 

 精一杯、まるで生まれたときからピエロだったかのように演じたジーニョは、心から楽しく、そして心地良い気分に酔いしれていました。これまでの彼は疲れても物足りず、どこか自分をもてあましているようでした。

 そして二日目の大成功に、仲間は彼のところへ来て握手したり、抱きしめたりして、ジーニョはもみくちゃにされました。

 次の日も、その次の日も大成功!とうとう最後まで、ずっと興行は盛り上がったまま続きました。

 団長は、あごをなでなで、笑いが止まりません。お腹を揺すってあちこち歩いては大成功を喜びました。そしてジーニョのところへ来ると、そっとお金を掴ませようとしました。

「君のあのときの説得のおかげで、こんなにうまくいったんだ!本当にありがとう。」

ジーニョは団長の手を押しやりました。

「いいや、俺はみんなが楽しければそれでいいんだ。それに俺だって、いつまでピエロをやっていられるかわからねえですし。」

「それならなお更、お金は必要じゃないか。どうか、受け取ってくれ。それにお前さんがいなければ、誰がピエロをやるんだい?」

団長はこの律儀な男に益々近寄りました。

「おっと、団長さん。もういいじゃないか。俺は出来る限りピエロをするよ。だからもう、一人にしてくれ。」

仕方なく、団長はそこを離れました。

大成功の一週間はこうして幕を閉じました。

 

      六、月は輝く

 

 不入りだったサーカスの一日目、わずかに来ていたお客のなかに、この町の町長さんがいました。町長さんは小さい頃とても貧しく、とてもサーカスなど観ることなどできませんでした。一度でいいから観てみたいと思い、この楽園サーカスを楽しみにしていたのです。

 そして・・とっても満足し、特にピエロ──ジーニョの存在が目に焼きついて離れませんでした。あまりに楽しかったので、急きょ町中の学校へ連絡し、自分のお金で子供らを招待したのでした。

 子供の親たちもそれなら、とついて来る、そして大喜びし、今度はそのうわさで町中の人たちが観たいと思ったのです。そしてあの大盛況。観た人もサーカスの団員もみんなが喜びました。

 

 そんなこともまったく意に介さないジーニョは、興行の終わった夜もまた小窓から空を眺めていました。だんだん暗くなる空の上に、いつの間にかまん丸の満月になっているお月さまがいます。

 その光はいつになく煌々とし、見上げるジーニョの顔を照らしました。

 ワインも飲まず、ジーニョは語りかけました。

 

「なあ、お月さんよ。俺はやったぞ!とてもいい気分で、もう何もいらないって感じさ。金も何もな・・・。ただ、お月さんのところへ行けたら、俺は嬉しいんだがな。」

ジーニョはそれだけ言うと、心から疲れた・・・と思いました。そして満足そうにベッドに倒れ込み、深々と眠りにつきました。

 

 翌日。

 疲れ気味の団員と団長は、隣町へ行くため、テントをたたみ、物を積み込む作業を始めていました。もう移動しなくてはなりません。昨日の余韻が残っている皆の気持ちは晴れ晴れとしています。

 気がつくと、ピエロがいません。一人の団員が彼の部屋をのぞきに行きますと──ベッドの上で、ジーニョは・・・・

 ピエロの衣裳のまま、息絶えていました。ほほ笑んだままの顔で、安らかに・・。

 

 

     七、お月さまとピエロ

 

 ジーニョは気がつくと、なんとお月さまのふところで横たわっていました。

 起き上がると、まぶしいはずのお月さまの世界は白っぽく、温かく、そしてとても静かでした。

 ジーニョは生身を地上に置いて、魂は念願のお月さまにいたのです!

 

「よう!嬉しいね。お月さまのふところで休めるなんてさ!そうだ、この衣裳でお前さまを笑わせたいね!」

 

 もうパンもワインもいらなくなったジーニョは、永遠の静けさの中で、顔も衣裳もそのままで、ピエロそのものになったのでした。

 

 

     さいごに

 

 三日月の上に、ちょこんとピエロさんが座っていたら、それはきっと、このジーニョさんかもしれません。いえ、もう名前など必要ないのです。ピエロは彼。

 おどけた顔で、みんなを楽しませてくれるでしょう。

 

 ・・・あ、なんとなく聞こえてきませんか?

「さあ、いらっしゃい、いらっしゃい。サーカスが始まるよ!」

                                                                    おしまい